歴史ある明治期の鉄道トンネル。その中でも現役かつ簡単に観察できるトンネルは意外にも都心のど真ん中にあったりします。

御所トンネル

 中央本線の四ツ谷駅を出た下り電車は短いトンネルをくぐり信濃町駅へと向かいます。これが赤坂御所をくぐる「御所トンネル」です。現在この区間は緩行線と急行線(いわゆる快速線)の複々線区間ですが、この中の緩行下り線(中野方面)のトンネルは1893(明治27)年の開業時から使われているもので、明治時代に建設された鉄道トンネルとしては東京23区内で唯一現存している貴重な物です。

そもそもなぜトンネルを掘った…?

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 この区間の中央線を見ると、路線が赤坂御所・千駄ヶ谷のある南へ大きく迂回しているのがわかる。甲武鉄道市街線として建設されたこの区間、素直に北側を真っすぐ抜けた方が「市街地」であるのに何故こんなにも南に迂回しているのだろうか?
実はそもそも建設前の甲武鉄道の計画では当初から北回りの真っすぐ抜けた路線を計画していた。距離も短く、工事も容易でかつ需要も見込めるので当然のことであったのだが、これに「待った」をかける者が現れる。当時は信濃町に練兵場(青山練兵場)を置いていた陸軍である。

陸「東京に軍事停車場が欲しいから、青山練兵場から新宿に出られるように南回りにしてくれ。そしたら陸軍は保護するで」
甲「民間企業なんで採算の取れない路線はちょっと…」
陸「会社の損と国家有事、どっちが大切なんや?軍事停車場作るんやで(圧力)」
甲「と、とりあえず測量して調べるから待ってください…」
…測量…
甲「おわりました」
陸「おう」
甲「四ツ谷から青山練兵場へ線路を敷くには赤坂の御所と学習院初等科の下をトンネルで通さなけらばないけないと分かりました。そんな畏れ多い事は出来ませんのでやっぱり南回りは無理です(これで引き下がってくれるか…)。」
陸「そういう事ならこっちでトンネル通せるようにしてやるから安心して」
甲「!?」
…というようなやり取り(かなり意訳してます)が行われたようで、前代未聞の御所を通過するトンネルが掘られることになりました。この区間で線路が南に大きく曲がるのは、軍事上の理由に他ならないのです。
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降りるのはJRではなく、丸の内線の四ツ谷駅。
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ここは元々外堀であったところを埋め立てて造った場所であり、都会のど真ん中でありながらも少しの静けさを味わうことが出来ます。
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第三軌条の地下鉄線を日の下で間近に見ることができ、こちらも興味深いです。
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荻窪方面のホームの赤坂見附寄りから旧御所トンネルの坑口を見下ろすことが出来ます。このトンネルの反対側坑口は新御所トンネル建設に合わせて改修されてしまったため、ここが23区で唯一明治時代の鉄道トンネルをそのまま残した場所となっています。
ちなみにこの区間の建設当初には、ここの他にも「四番町トンネル」「三番町トンネル」「四谷トンネル」がありましたが、全て複々線工事の際に明かり区間になっているため、御所トンネルのみが残りました。

旧御所トンネル(四ツ谷側坑口)
施工年:1893(明治27)年←同区間の開業年
材質:赤煉瓦
工法:開削工法
全長:317m
断面形式:
不明
迫石・迫持:盾状迫石・エキストラドス(拱背線・外拱)尖形
要石:確認可能(特殊装飾無し)
笠石:有(切石を布積み)
扁額類:無(意匠有?)
帯石:有(切石を布積み)
パラペット(胸壁
):有(イギリス積)
ピラスター(壁柱・控壁):有(切石を布積み)
ウイング(翼壁):
有(イギリス積)
インバート(仰拱):無し
所属・管轄:甲武鉄道→日本国有鉄道(1906年~)
使用終了年:現役
経年:124年
特筆事項:笠石にポール固定跡有、東京23区内で唯一現存の明治製。
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現在は緩行下り線のみが使用していますが、見てのとおり横に隙間があります。実はもともとこの御所トンネルは複線断面で掘られており、複々線化までは複線として利用されていました。
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右手には複々線化の際に掘られた3線分の「新御所トンネル」があります。旧御所トンネルのお陰?か忘れられがちなこのトンネルですが、新しいといってもこのトンネルも1929(昭和4)年の完成。
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鉄筋コンクリートによるボックスラーメン構造のトンネルとしてはかなり初期の構造物で、最近のトンネル造成にも大きな影響を与えたと言われています。
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話を旧御所トンネルに戻します。このトンネルの施工は開削工法で行われたそうで、地上から掘削しながら土砂を「土留矢板」で押さえ、仮の木製型枠(セントル)を組み、レンガを巻きたてるという当時としては一般的な施工であったそうですが、上水道や上野学習院の建物などに影響を与えないように慎重に掘られたと思われます。
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帯石や笠石には切石積みが施されており、重厚なデザインとなっています。
(旧御所トンネルはとても観察しやすいのですが、冬の午後は西日が凄いのでオススメしません。)
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駅を出て坑門の上に近づいてみます。
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公道上から最接近してみました。建設当初や竣工時の図面を見ると、ピラスタ―の上(控壁の上)にポールがあったことが分かりますが、今はありません。
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しかしよく観察してみると、笠石の上にそのポールを固定していたと思われる金具と台座が残っていました。
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レンガは当然イギリス(オランダ)積みでした。

最後に丸の内線と旧御所トンネルの位置関係を示そうと思います…
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なんでこんなにタイミング良く銀座線が…

探索終了。
(2019/3/12:記事一部リニューアル)