日本では前例のない完全新設LRTとして工事が進む「芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)」。先日新車が納入されたようなので、これを見に行くついでに工事中の様子を取材してきました。
そんな中、富山県富山市のLRT(富山ライトレール)が2006(平成18)年に開業し、コンパクトシティのモデルとしても成功を収めると、市内でもLRTを整備しようという機運が高まり、2013(平成25)年3月に「東西基幹公共交通の実現に向けた基本方針」が示され、この中でLRTの導入が示されました。LRTの整備方針が示されると、この動きに真っ先に反応したのは芳賀町でした。基本方針の約半年後には芳賀町までの延伸が要望され、宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地(本田技研北門)までの優先整備ルート(14.6km)が計画されます。これが現在工事中の「芳賀・宇都宮LRT」です。
2015(平成27)年に、官民およそ半分の出資で第三セクター方式の㈱宇都宮ライトレールが設立され、2018(平成30)年には先述の優先整備ルートが起工されました。「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」に基づき上下分離方式を採用、宇都宮市と芳賀町が設備を保有し、運行を宇都宮ライトレールが行う方針となっています。開業予定は幾度か延期を繰り返しているものの、現在の予定では2023(令和5)年となっており、これに合わせて工事が急ピッチで進行しています。先日(2021(令和3年)の4月)には停留場の正式名称とLRT車両の愛称が決まり、翌月には車両が初めて搬入されました。今回はこの新型車両と、沿線の工事状況を見学していきます。
(余談:廃線探索などを主に書いているサイトなので…これもある意味「未成線」なことから廃線探索カテゴリに放り込もうと思ったのですが、無事開業して欲しいので(?)、本記事はその他カテゴリとしました。)
栃木県芳賀町下高根沢の本田技研北門付近にやって来ました。この付近が終点の「芳賀・高根沢工業団地」停留所となるようです。整備のために街路樹がバッサリ切られています。
しばらく進むと、まさに目下工事中といった現場が現れました。軌道は道路の中心を通る計画なようですが、道幅の確保のために盛り土での拡張が行われるようです。
板には「14K000M」と書かれています。何となく鉄道らしさを感じることが出来ました。
次の停留所「かしの森公園前」からその次の「芳賀町工業団地管理センター前」までの区間には見事なアップダウンがあります。
車でも急勾配といえそうなここをトラムが走る姿はなかなか格好良さそうです。
途中から宇都宮市に入り、「芳賀台」「ゆいの杜東」「ゆいの杜中央」「ゆいの杜西」と建設予定区間をしばらく進むと、軌道は清原工業団地方面に向かって南に曲がります。ここでは川沿いの低地を進むために専用の高架線が建設されるようです。
まっさらな高架橋が美しいです。道路に合わせて曲がっているため、鉄道のイメージには無いような急カーブを描きそうで、これは小回りの利くトラムならではといった感じです。
付近の歩道橋から当該区間を見下ろします。写真奥がゆいの杜西方で、高架線の先で写真右手に折れています。
高架線を過ぎると軌道は地平に移り、清原工業団地内に入っていきます。
ここから先は軌道が敷設されています。
近年、地平線での新線建設はなかなか無いので、こうして建設中の軌道を眺めることが出来るのは貴重な経験です。
中央のポールが架線柱になるようで、複線の間に一本だけ柱が建っている所にトラムの特徴が出ています。
次の「グリーンスタジアム前」停留所予定地にやって来ました。初めてのホーム構造物出現にテンションが高まります。
ここではLRTでは初となる快速と各停の緩急接続が行われるとのことで、このホームは両側とも同方面の列車が発着するようです。
道路との交差部の向かいに反対方向の乗り場が左右対称といった様子で配置されています。
軌道法に則った信号設備も見ることが出来ました。
その次の「清原地区市民センター前」停留所では、バス乗り継ぎやパークアンドライドの拠点となる「トランジットセンター」の開設が予定されており、そういった構造物の様子も見ることが出来ました。
さて、清原地区を抜けて「清陵高校前」停留所周辺の様子です。一転して長閑な郊外の風景が展開されています。
鬼怒川が近づいて来てあたりは田んぼの広がる低地となっていますが、軌道はこの区間を高架橋と築堤で横切って進むようです。
小さな丘を越えるように少し進んで「飛山城跡」停留所周辺です。ここでは鉄道らしからぬ光景が広がっています。
それがこのうねるような勾配を描く高架橋で、これは停留所を平坦にするためにこのような不思議な線形になっているようです。
あたりが開けているこのあたりは完成後の車窓が良さそうに感じられます。
飛山城跡の先でいよいよ鬼怒川を渡ります。総延長643mの9連アーチは壮観です。今更ですが、この軌道は法律上、専用軌道である区間もあくまで「専用道路上の軌道」扱い。その証拠?に橋上の柵が車道然としたものになっています。架線柱も無い今、ここから見上げると道路橋にしか見えません。川を渡った先はいよいよ宇都宮の市街です。この市街地手前の新4号バイパス沿いに車両基地が建設されているので、覗きに向かいます。
東西に走る本線から南に折れた形で、車両基地が建設されています。
建屋の手前には搬入されたばかりの開業用の新型車両・HU300形が留置されていました。
ちょうどカメラを向けたところでパンタグラフが上昇、主電源が入りました。
「雷」をモチーフにしたネーミングと車両デザインになっています。
サイドビュー。新潟トランシス製の3連節車体で、開業までに計16編成が導入されるようです。
車両基地と本線はまだ接続されていませんが、トップナンバーのHU301編成が先行して搬入されています。今後は地元住民対象の内覧会が予定されているようで、その準備が進んでいました。
車両基地から先はまだ整備が進んでいないので、そのまま鬼怒通りを進み、起点の宇都宮駅東口にやって来ました。随所に建設をアピールする広告が貼りだされています。
反対側の宇都宮駅西側から東武宇都宮方面の商店街にものぼりが吊り下げられています。現状の整備区間は駅の東口までですが、今後西口から桜通り十文字付近までの3kmの延伸も予定されており、駅北側に在来線を跨ぎ新幹線をくぐる高さでの高架橋を建設することで東西を連絡するようです。他にも各地への延伸が構想されているようで、市街には「夢」が広がっています。
「雷都」と工業団地を結ぶLRT
雷が多い事から「雷都」と呼ばれる北関東最大の都市、栃木県宇都宮市。市内とその周辺の自治体を移動する際の公共交通機関では路線バスが主要であり、鉄道では新幹線と東北本線(宇都宮線)、それに日光線や東武宇都宮線、烏山線がありますが、近郊の通勤・通学などの需要を満たすには至っていません。また一般道路では自家用車の移動も多いため、路線バスでは朝夕を中心に慢性的な遅延を抱えてしまう問題がありました。そこで宇都宮市ではかねてから新交通システムなどによった基幹交通を整備することが検討されてきました。そんな中、富山県富山市のLRT(富山ライトレール)が2006(平成18)年に開業し、コンパクトシティのモデルとしても成功を収めると、市内でもLRTを整備しようという機運が高まり、2013(平成25)年3月に「東西基幹公共交通の実現に向けた基本方針」が示され、この中でLRTの導入が示されました。LRTの整備方針が示されると、この動きに真っ先に反応したのは芳賀町でした。基本方針の約半年後には芳賀町までの延伸が要望され、宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地(本田技研北門)までの優先整備ルート(14.6km)が計画されます。これが現在工事中の「芳賀・宇都宮LRT」です。
2015(平成27)年に、官民およそ半分の出資で第三セクター方式の㈱宇都宮ライトレールが設立され、2018(平成30)年には先述の優先整備ルートが起工されました。「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」に基づき上下分離方式を採用、宇都宮市と芳賀町が設備を保有し、運行を宇都宮ライトレールが行う方針となっています。開業予定は幾度か延期を繰り返しているものの、現在の予定では2023(令和5)年となっており、これに合わせて工事が急ピッチで進行しています。先日(2021(令和3年)の4月)には停留場の正式名称とLRT車両の愛称が決まり、翌月には車両が初めて搬入されました。今回はこの新型車両と、沿線の工事状況を見学していきます。
(余談:廃線探索などを主に書いているサイトなので…これもある意味「未成線」なことから廃線探索カテゴリに放り込もうと思ったのですが、無事開業して欲しいので(?)、本記事はその他カテゴリとしました。)
工業団地から鬼怒川を越えて宇都宮市街へ
栃木県芳賀町下高根沢の本田技研北門付近にやって来ました。この付近が終点の「芳賀・高根沢工業団地」停留所となるようです。整備のために街路樹がバッサリ切られています。
しばらく進むと、まさに目下工事中といった現場が現れました。軌道は道路の中心を通る計画なようですが、道幅の確保のために盛り土での拡張が行われるようです。
板には「14K000M」と書かれています。何となく鉄道らしさを感じることが出来ました。
次の停留所「かしの森公園前」からその次の「芳賀町工業団地管理センター前」までの区間には見事なアップダウンがあります。
車でも急勾配といえそうなここをトラムが走る姿はなかなか格好良さそうです。
途中から宇都宮市に入り、「芳賀台」「ゆいの杜東」「ゆいの杜中央」「ゆいの杜西」と建設予定区間をしばらく進むと、軌道は清原工業団地方面に向かって南に曲がります。ここでは川沿いの低地を進むために専用の高架線が建設されるようです。
まっさらな高架橋が美しいです。道路に合わせて曲がっているため、鉄道のイメージには無いような急カーブを描きそうで、これは小回りの利くトラムならではといった感じです。
付近の歩道橋から当該区間を見下ろします。写真奥がゆいの杜西方で、高架線の先で写真右手に折れています。
小川の田んぼ側から高架線の様子を眺めます。完成後は良い風景写真が撮れそうです。
6月とはいえ既に日差しがかなり照り付け、汗が止まりません。
6月とはいえ既に日差しがかなり照り付け、汗が止まりません。
高架線を過ぎると軌道は地平に移り、清原工業団地内に入っていきます。
ここから先は軌道が敷設されています。
近年、地平線での新線建設はなかなか無いので、こうして建設中の軌道を眺めることが出来るのは貴重な経験です。
中央のポールが架線柱になるようで、複線の間に一本だけ柱が建っている所にトラムの特徴が出ています。
次の「グリーンスタジアム前」停留所予定地にやって来ました。初めてのホーム構造物出現にテンションが高まります。
ここではLRTでは初となる快速と各停の緩急接続が行われるとのことで、このホームは両側とも同方面の列車が発着するようです。
道路との交差部の向かいに反対方向の乗り場が左右対称といった様子で配置されています。
軌道法に則った信号設備も見ることが出来ました。
その次の「清原地区市民センター前」停留所では、バス乗り継ぎやパークアンドライドの拠点となる「トランジットセンター」の開設が予定されており、そういった構造物の様子も見ることが出来ました。
さて、清原地区を抜けて「清陵高校前」停留所周辺の様子です。一転して長閑な郊外の風景が展開されています。
鬼怒川が近づいて来てあたりは田んぼの広がる低地となっていますが、軌道はこの区間を高架橋と築堤で横切って進むようです。
小さな丘を越えるように少し進んで「飛山城跡」停留所周辺です。ここでは鉄道らしからぬ光景が広がっています。
それがこのうねるような勾配を描く高架橋で、これは停留所を平坦にするためにこのような不思議な線形になっているようです。
あたりが開けているこのあたりは完成後の車窓が良さそうに感じられます。
飛山城跡の先でいよいよ鬼怒川を渡ります。総延長643mの9連アーチは壮観です。今更ですが、この軌道は法律上、専用軌道である区間もあくまで「専用道路上の軌道」扱い。その証拠?に橋上の柵が車道然としたものになっています。架線柱も無い今、ここから見上げると道路橋にしか見えません。
新型車両「HU300形」
東西に走る本線から南に折れた形で、車両基地が建設されています。
建屋の手前には搬入されたばかりの開業用の新型車両・HU300形が留置されていました。
ちょうどカメラを向けたところでパンタグラフが上昇、主電源が入りました。
「雷」をモチーフにしたネーミングと車両デザインになっています。
サイドビュー。新潟トランシス製の3連節車体で、開業までに計16編成が導入されるようです。
車両基地と本線はまだ接続されていませんが、トップナンバーのHU301編成が先行して搬入されています。今後は地元住民対象の内覧会が予定されているようで、その準備が進んでいました。
車両基地から先はまだ整備が進んでいないので、そのまま鬼怒通りを進み、起点の宇都宮駅東口にやって来ました。随所に建設をアピールする広告が貼りだされています。
反対側の宇都宮駅西側から東武宇都宮方面の商店街にものぼりが吊り下げられています。現状の整備区間は駅の東口までですが、今後西口から桜通り十文字付近までの3kmの延伸も予定されており、駅北側に在来線を跨ぎ新幹線をくぐる高さでの高架橋を建設することで東西を連絡するようです。他にも各地への延伸が構想されているようで、市街には「夢」が広がっています。
東口ではLRT建設に先行して周辺の再開発がすすめられています。
これにて建設区間の探索は終了です。今後は完成まで進展も見守りつつ、完成した暁には是非緩急接続を体験しようと思います。
(取材に同行して頂いた方の動画もどうぞご覧ください)
探索終了。
これにて建設区間の探索は終了です。今後は完成まで進展も見守りつつ、完成した暁には是非緩急接続を体験しようと思います。
(取材に同行して頂いた方の動画もどうぞご覧ください)
探索終了。
写真:特筆事項が無いものは本記事中(連載の場合全編)全て筆者/同行者による撮影
執筆:三島 慶幸
執筆:三島 慶幸
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