長崎県の島原半島。中央には世界有数の活火山である雲仙岳を抱き、各地には温泉が存在します。その火山性温泉のひとつである「小浜温泉」までの急峻な道を、かつて2つの鉄道会社が結んでいました。

「海沿いの山崖」を結んだ2つの鉄路

 島原半島の玄関地、諫早から島原鉄道に乗ること12Km、愛野村駅(現:愛野駅)から南下し、半島西部の温泉地である小浜に至る路線がかつて存在しました。

 島原鉄道や口之津鉄道といった鉄道を手掛けた人物、植木元太郎は小浜温泉への観光客輸送を目指し「温泉(読みは「うんぜん」)軽便鉄道」(その後すぐ社名は「温泉鉄道」に変更)を設立、1923(大正12)年にまず愛野村から途中の千々石までを開業させました。しかしここで問題が生じます。千々石から先が本格的な山岳区間だったのです。この温泉鉄道、既に経営状態が悪かったため、結局ここから先の建設に踏み切らなかったため、業を煮やした地元民らが新たに「小濱地方鉄道」(その後すぐ社名は「小濱鉄道」に変更)を設立。同社が千々石以降の建設を進め、1927(昭和2)年に温泉鉄道と接続する形で千々石~肥前小浜(雲仙小浜)間を開業し、同年6月には諫早~愛野~千々石~肥前小浜の3者直通運転を始めました。(この時代から2社以上で直通運転をしていたという例はほとんど無いものと思われます。)
 そしてここから観光鉄道としての発展が進む…はずなのですが、なんと全線開業に至っても経営が改善されませんでした。肥前小浜駅の立地が小浜温泉街から離れており、乗合自動車などの他交通機関に圧迫されていたのです。最終的に温泉鉄道は1933(昭和8)年に小浜鉄道に吸収され、雲仙鉄道と名を変え存続の道を探しましたが、結局経営が好転することは無く1938(昭和13)年に全線が廃止されました。

 今回はそんな雲仙鉄道の中でも最も痕跡が残っている、小濱鉄道が開業させた区間を探索します。

探索開始

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諫早駅までは長崎本線を利用します。大村線系統には「国鉄色」のキハ66・67系が現役で、懐かしさを感じました。
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本来であれば島原鉄道で愛野まで出るところですが、時間が合わないので諫早から直接バスに乗車しました。
2008年式の日野レインボー、ノンステップのバスです。
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「上石田」というバス停で下車します。千々石と上千々石の間に位置するこの交差点から、小濱鉄道路盤がそのまま道路転用されている区間が始まります。
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国道57号線から南に緩やかに分岐する道が小濱鉄道の廃線跡になります。途中からは現在長崎県道201号線に転用されています。
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入ってすぐの様子。一見ただの道ですが…
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こうして遠くを眺めると一気に路盤の雰囲気になります。
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すこし歩くとすぐに痕跡が出ました。上千々石(岩)駅の跡です。
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駅名板を模した石板の下には詩が刻まれています。
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横には歴史を記した碑が建っています。
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そして上千々石駅はなんとホームが民家の土台として健在です。廃止から79年経っている事を考えると、すごいぞ小濱鉄道…
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上千々石を過ぎ、千々石の町から離れ始めると路盤はいよいよ山に入っていきます。
入口には跨線橋のような橋があり、橋自体は最近のものですが、現役の頃からこの位置には歩道橋がありそうです。
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道は築堤にさしかかります。一気に廃線跡の雰囲気が高まってきました。
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山に入ると切通しが始まります。
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切り通しがいよいよ深くなると…
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トンネルだ!!
鉄道時代から大きく手を加えていないことから幅員が狭く、トンネルの入り口には退避スペースが設けられています。

そして…
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海だ!
すぐ横に海が見えます。
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千々石第二隧道(愛野側坑口)
施工年:1923(大正12)年
材質:切石・切石布積み
工法:山岳工法
断面形式:甲型断面又はそれに準ずるもの(推定)
全長:81m
要石:確認不可
笠石:切石
扁額類:無
インバート(仰拱):無
所属・管轄:小濱地方鉄道→小濱鉄道→雲仙鉄道→長崎県
使用終了年:現役(長崎県道に転用)
経年:94年
特筆事項:鉄道としては1927(昭和2)年から11年間使用。
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石造りのトンネル内には待避坑があり、鉄道トンネルであった事を証言してくれます。
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最高だ…
そしてトンネルを抜けた先にはすぐに次のトンネルがぽっかり口を開けています。前編で早速ですが、今回の探索の中で最もお気に入りの光景になりました。DSCN6797
トンネルを抜けると右手に再び海が見えます。DSCN6800
千々石第一隧道(愛野側坑口)
施工年:1923(大正12)年
材質:切石・切石布積み
工法:山岳工法
断面形式:甲型断面又はそれに準ずるもの(推定)
全長:186
要石:確認不可
笠石:切石
扁額類:
インバート(仰拱):無
所属・管轄:小濱地方鉄道→小濱鉄道→雲仙鉄道→長崎県
使用終了年:現役(長崎県道に転用)
経年:94年
特筆事項:鉄道としては1927(昭和2)年から
11年間使用。隧道内カーブ有り。
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こちらの第一隧道は最初の第二隧道より100メートル長い上に洞内で鉄道跡らしい緩やかなカーブがあり、より鉄道トンネルらしさを実感できます。
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海沿いの崖にへばり付くように掘られた2本の隧道。簡素な石造りの佇まいがかえってその雰囲気を高めています。

【中編】に続く