今も昔も下町の「華」的な存在の街、浅草。その中心には関東大震災で消えたシンボルがありました。

雲を凌ぐほど高い楼閣

 衣食住をガラリと転換させてしまった文明開化も落ち着きはじめた明治20年代以降、日本国内でも交通網の普及などの近代化にあわせて「観光」文化が始まりました。今も昔も観光といえばやはり眺望というものがその目的に大きく関わってきます。…眺望が良い所といえばやはり高い所、この頃より望楼建築が盛んになります。このころ浅草には木造の「富士山縦覧場」が1887年(明治20)年に開業し、人気を博していました(※)。東京の浅草凌雲閣は、浅草公園に建てられた煉瓦造り(上層2階は木造)12階建て(高さ52m)の展望塔で、1890(明治23)年に竣工されました。凌雲閣は当時の最も高い建築物でまさに高層建築の先駆けであり、文字通り「雲を凌ぐほど高い」という事から命名されました。凌雲閣の館内の1~8階には日本初の電動エレベーターが設置され、上層階の展望室からは関東一帯の山々を見渡すことができたようで、開業時には「東洋のエッフェル塔」ともてはやされ、多くの見物客で賑わったそうです。
 その後、明治末期から大正にかけては客足が減り、経営難となっていた凌雲閣。その運命を決定づけたのは1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災でした。建物の8階部分より上が崩壊し炎上、見物者はほぼ即死しました。(関東大震災の絵巻や写真に崩れ傾いた凌雲閣が描かれているのを学生時代に一度は歴史の教科書などで目にした事があるでしょう。)
 元よりの経営難から復旧が困難であったため再建されることは無く、更なる崩壊による二次災害を防ぐべく、同年9月23日に陸軍赤羽工兵隊により爆破解体され、凌雲閣はたったの30余年で姿を消しました。
 その後跡地は劇場となり、現在はパチンコ店となっていると伝えられてきましたが、はっきりとした場所は曖昧なものとなっていました。最も最近の学術調査である1981(昭和56)年の発掘調査によると、凌雲閣の位置は現在の浅草2丁目13から14番にかけてあったとされていましたが、なんと2018年の年明けに浅草2丁目14番の工事現場からその残骸と思わしき物体が発掘されたというのです。

(※)富士山縦覧場は木造であった事もあり、台風の被害を受け取り壊されていました。これもまた煉瓦造りの凌雲閣建造の契機となったと云われています。

痕跡を探して

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やって来たのは平日朝の浅草。もうすでに外国人観光客が幾人も来ていました。
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個人的浅草名物、営団時代から残っていそうな看板。円の中に「G」の文字が入っていないのが凄く懐かしいです。(メトロになってもう15年も経つんですね…)
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現代の楼閣を見上げながら朝もやの浅草を歩いて行きます。
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建築時のスカイツリー。少しづつ伸びていく様子が面白かったのも6年以上前のことですね…
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一昔前を想うのも程々に、国際通りと親疎通りが交差するところで路地へと入ります。だしの自販機が目印です。
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進んだ先には人でにわかに活気づいた一角が。
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そこでは工事が行われていました。ここが凌雲閣が発掘された場所なのでしょうか…
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あれは…!
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奥に煉瓦造りの構造物が見えました。これが95年もの間地中に眠っていた凌雲閣の一部です。
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無残にも削られてしまっていますが、その分綺麗に見えます。
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凌雲閣の基礎部分がはっきりと見えます。
 
手ブレが酷いですが動画でどうぞ…
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ちなみにギャラリーがなぜここまで集まっているのかというと…
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削りだされた煉瓦片がトラックに積み込まれるところでなんとそれを無償で配っていたのです。
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大きくて色の良い状態のいいものは群がったギャラリーが争う様に持って行きます。下町の水気の多い土壌でボロボロになっている上にどぶ臭い煉瓦片をそんなに沢山持って行ってどうするのかは疑問ですが、それだけ注目されているのだなぁと思いつつも、転売でもすんのかこいつらなどと斜に構えて眺めていると…「お兄ちゃん、持って行きな」の声と共に目の前には煉瓦ブロックが。工事現場の方が気遣って私に渡してくださいました。
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慌ててコンビニの袋に詰めさせていただきました。帰宅後に天日干しした後、新聞紙にくるんでから密封し、現在は暗室で保管しています。
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こんな感じ…?

ちなみに現場のその後ですが、無差別配布は中止され、煉瓦片の状態のいいものは区役所に引き取られた後に予定通りビルが建ちました。
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いつもの静かな路地裏に戻った現場ですが、当該ビルは凌雲閣に敬意を表し、壁面に凌雲閣のイラストを描いています。


探索終了。


本記事中(連載の場合全編)で使用した地図・航空写真:
・国土地理院 地理院地図(電子国土web)(加工は筆者によるもの)
写真:特筆事項が無いものは本記事中(連載の場合全編)全て筆者/同行者による撮影
執筆:三島 慶幸