交通信号機は交差点に多く置かれ、道路交通の安全確保、人や車の流れの円滑さを維持するために日本各地で活躍しています。置かれた時期や置かれる場所、気候条件などによって様々な形態の信号機がありますが、今回は仙台の路地に残る希少かつユニークな信号機を訪問してみました。


懸垂式信号機

 その見た目から「UFO信号機」とも呼ばれる「懸垂式信号機」(正式名称:懸垂型交通信号灯器)は、車両用と歩行者用の全方向の信号機をまとめた一つの筐体を、交差点の直上に吊り下げる方式の信号機で、通常の交差点のように四隅に信号機を設置するスペースがない狭い路地で、また狭いものの交通量が多いような交差点に信号機を設置することを目的に、名古屋電気工業というメーカーが1975(昭和50)年に開発した特注仕様の信号機です。
 全方向の信号機を集約して一本の支柱で支えることが出来るというかなり画期的なアイデアが売りでしたが、特注品ということで(40年前の価値で)1基約600万円と高価であった上、警察庁で定めた仕様に対応していないため設置への補助金が下りないなどの金銭的な問題があったほか、自動車や歩行者が信号を見落として事故を起こすといった根本的な問題もあったようで、この懸垂型信号機は何故か仙台市街地周辺に1979(昭和54)~1986(昭和61)年の間にいくつかが設置されただけにとどまり、全国的にはほぼ設置されずとても希少なものとなってしまいました。(他には名古屋、倉敷、広島でもごく少数設置実績があったそうですが、現在では見ることが出来ません。)
 そして現在では信号機がLED化などの技術進歩によって軽量・薄型になり、それにあわせて信号柱も細くなったため、老朽化したものは順次通常の信号機に置き換えられています。宮城県警の発表によると、2023(令和5)年までに県内全ての懸垂式信号機を撤去するとのことなので、用事で仙台に来たついでに訪問してみました。
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やってきたのは仙台市営地下鉄・仙台駅。2015(平成27)年に開業したばかりの東西線に乗車します。
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どうでもいいですが、早朝の探索だったので乗る電車が始発列車でした。
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3駅乗車し、薬師堂駅で下車します。
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(他に予定もあるので)今回は現存する全ての信号機を回ることはせず、ここから仙台駅に徒歩で戻るようなコースで探索していきます。
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歩きだすと早速史跡が目に飛び込んできました。これは陸奥国分寺跡だそうで、復元されている様子が見えました。
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陸奥国分寺跡で左折し、路地に入ります。
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ここに今回探索する懸垂式信号機の一か所目があります。誰が見ても分かる不思議な形状!
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これがその全貌です。一本の支柱からアームが延びて、交差点の中央に信号機が吊り下がっています。
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歩行者用信号機は内側に用意されています。こんな信号機なんてみた事が無いという非地元民の歩行者だとうっかり見逃してしまいそうです。
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とてもコンパクトで、そのこじんまりさにちょっと可愛げ(?)もあります。
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路地を連坊駅方面に進み、表柴田町の手前の「白鳥神社」で左折し、三百人町方面を目指します。
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県道235号線との交差部に2機目があります。
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狭い路地だなぁと改めて分かるような配置です。
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ここでは路地側の歩行者用信号が設定されていないようで、本来その灯具が配される場所は埋め込まれていました。
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見上げると綺麗な正方形です。
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この交差点を右折し、東北本線・新幹線をくぐります。
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ありました。
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ここの印象は「ド根性信号」といった感じ?
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交差点が直交していないため、信号の向きが道に合わせてずらされています。
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特注品だからこそなせる技ですね…
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出っ張りを側面から。余談ですが、この信号機を製作した名古屋電気工業は現在信号機製造事業そのものからも撤退しているようで、詳しい事は分かりませんがその意味でも希少性があると言えそうです。
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3か所見たところで今回は終了。あとはサクサクと散歩して…
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7時前、仙台駅に到着しました。一周に掛かった所要時間は1時間半弱ほどでした。他にも何ヶ所かあるようですが、信号機の立地を考えると、さっと見たいだけであるのなら仙台駅を起点に動くとこのコースが理想の「見学コース」として個人的にはオススメです。今記事で紹介した3機が今現在も健在かは分かりませんが、日本からこのユニークな信号機が消滅する前に一度、訪問してみてはいかがでしょうか。

探索終了。


本記事中(連載の場合全編)で使用した地図・航空写真:
・国土地理院 地理院地図(電子国土web)(加工は筆者によるもの)
写真:特筆事項が無いものは本記事中(連載の場合全編)全て筆者/同行者による撮影
執筆:三島 慶幸