築地市場まではかつて東海道線の支線が延びており、鉄道による貨物輸送が行われていました。

歴史ある「汐留駅」

 現在では「汐留シオサイト」といった再開発ビル群や、日本テレビの本社兼スタジオがある東京都港区の汐留地区ですが、もともとここには広大な貨物ターミナルの「汐留駅」がありました。今は見る影も無いこの貨物駅ですが、駅としての歴史はとても古いのが特徴です。実はこの貨物駅、1914(大正3)年に「汐留駅」と改称したのですが、改称前の駅名は「新橋駅」、……そう、本最初の鉄道路線の起点として開業した新橋駅がこの駅のルーツだったのです。もともと元祖ターミナル駅として君臨した新橋駅でしたが、新しいターミナル駅として東京駅が完成したにあたって、なんと貨物駅として再利用されていました。
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「汽笛一声 新橋を…」と歌われたという事で駅前にSLが置かれている新橋駅ですが、こちらの新橋駅(=今の新橋駅)は元々「烏森駅」であり、汐留貨物駅と同時に新橋駅と改称したものです。汽笛は一声もしてないニセモノ駅ってことですねぇ
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 初代・新橋駅の跡地の一区画は2003年に復元が行われ、かつての栄華を感じることが出来ます。
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一部では当時の線路も再現されています。
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鉄道開業初期の線路の特徴である、枕木がバラスト(当時は今とは異なり玉砂利)で覆われた様子がしっかりと再現されています。
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そして最大の特徴がこのレールの断面です。一般に「双頭レール」と呼ばれるタイプのもので、表裏上下の無いレールです。このタイプのレールは強度の問題から最初期のみ使用されたものであり、存在することだけでも貴重な一本が置いてあります。

汐留駅・築地市場引込線

 話を今回の本題に移します。汐留駅が貨物駅となってから20年程経った1935年に、築地市場の開場にあわせて、貨物ホームの脇から築地市場内に設置された「東京市場駅」まで、全長1.1 kmの単線の貨物支線が開業しました。当初から築地市場で取引された水産物、青果物などの生鮮食品を専門に取り扱い、1966年からは、高速運転対応冷蔵車のレサ10000形貨車を使用した特急貨物鮮魚貨物列車「とびうお」なども運転されていました。しかし、トラックの普及や高速道路網の整備などから取扱量が減少、1984年に廃止されました。
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現在の「汐留南」交差点あたりから引き込み線の分岐は始まっていたそうです。
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少し先へ進んでみますが、汐留貨物駅があった痕跡は全くありません。(強いて言えば都営大江戸線とゆりかもめに「汐留」の名前が引き継がれたくらいでしょうか。)
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ここら辺のどこかから浜離宮方面へ線路は曲がって行ったはずなのですが、本当に痕跡が無く、特定もトレースも出来ません。とりあえず築地市場方面へ向かいます。
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首都高速環状線の下まで来ると、小坪井林用軌道探索でお世話になっている鴨川日東バスを見かけました。
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…って奥に何か見えたぞおおおおおおお!
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踏切だ!!!!!
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鴨川日東バスのお陰(??)で引き込み線の痕跡にたどり着くことが出来ました。この踏切は「銀座に残された唯一の鉄道踏切信号機」という事で保存されているそうです。
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この踏切から先は路盤が道路に転用されているため、なぞることが出来ます。
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少し進んだ先で路盤は築地川を渡ります。
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橋自体は鉄道由来の物では内容ですが、鉄道時代の「尾張橋」を引き継ぎ「新尾張橋」という名前が付けられていました。先ほどの踏切も合わせて、この路線が地元に愛されていたことが窺えます。
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橋を渡ったところで進路を変え、真っすぐ築地市場方面へと進んでいきます。
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微妙な歩道と道の幅が廃線跡である事を物語っています。
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あっという間に築地市場入り口に着きました。来た道を振り返って一枚。
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ここから先が「東京市場駅」構内なのですが、構内=築地市場場内であり、立ち入ることは出来ませんでした。ちなみに駅ホームはそのまま残っているそうです。
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何か見える範囲で痕跡を…と探したところ、横の柵が古レールの再利用品であることを確認しました。
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築地市場周辺はかなり活気に溢れていました。それもそのはずで、実は探索したのは朝の7時。朝の「仕事モード」の邪魔にならないように早々に退散しました。
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後日訪問出来るだけ訪問してみました。
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内部にはレールが残されている所もあるそうです。
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結構揉めていましたが、近いうちに豊洲に移転してしまう築地市場。おいしい魚を味わいつつ長い歴史を感じに行ってみてはいかかでしょうか。

2019.2.1追記:築地市場移転後の解体工事の様子(上空より)
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特徴的な扇形もそろそろ見納めでしょう。
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解体工事が進んでいます。
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よくよく見れば貨物駅の痕跡も出てくるかもしれません。

探索終了。


本記事(連載の場合全編)での参考文献など(敬称略):
・今尾恵介監修「日本鉄道旅行地図帳」(新潮社)
写真:特筆事項が無いものは本記事中(連載の場合全編)全て筆者/同行者による撮影
執筆:三島 慶幸